インタビューや講演の記事を元にして、ユニコーン企業が組織のエンゲージメントを高めるための取り組みをご紹介する「世界の人事から」。「アフターコロナ」を見据え、海外のユニコーン企業の働き方はどのように変わっていくのでしょうか。今回はAirbnbを特集します。
新型コロナウイルス影響で従業員1/4を解雇するも、7ヶ月後には上場したAirbnb
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Airbnbは、デザイナーであるブライアン・チェスキー、ジョー・ゲビア、エンジニアであるネイサン・ブレハルチクの3名で共同創業された、宿泊先を提供する「ホスト」と部屋を借りたい「ゲスト」をつなぐWebサービスです。シェアリングエコノミーの先駆的企業としても世界で名高く知られてきました。
新型コロナウイルスが世界を変え始めた2020年5月。旅行のキャンセルが続き、売上高が67%減少、ビジネスに大きく打撃を受けたAirbnbは、苦渋の決断のすえ、従業員の1/4の解雇を発表しました。AirbnbのCEOで共同創業者のブライアンは、全従業員に決断のプロセスを丁寧に発信しました。ブライアンが書いた当時のメモには、「事業はすぐに完全復活すると予測している」と書かれていました。
そしてAirbnbは2020年12月に上場します。Airbnbの上場は2020年最大規模で、時価総額は1,200億ドル(約13兆円)となりました。ワクチン接種も進んだ結果、国内での旅行需要が高まり2021年夏には業績が回復、売上高は前年比4倍、2019年同時期の水準も上回る結果となりました。
リモートワーク普及率は60%以上、それでも”完全リモートワーク”を推進しないGAFA
新型コロナウイルスの状況下、総務省の調査によると、日本企業におけるリモートワークの導入率は2020年4月以降は約30%となりました。2020年4月以降の導入率は2017年の約14%から2倍以上も上昇したことになります。一方アメリカでは、同時期のリモートワーク普及率は60%以上ともいわれ、ヨーロッパ諸国と比較しても高い水準となっています。背景として、アメリカでは10年以上前から「テレワーク推進法(Telework Enhancement Act)」が制定され、新型コロナウイルスが蔓延する以前からリモートワークという働き方への関心が高かったことが新型コロナウイルス蔓延後の普及率に影響しているといえます。
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普及率の高いアメリカでも、米国の主要IT企業のひとつであるGoogleはリモートワークの見直しを唱えています。2020年12月、同社はリモートワークを2021年9月まで続け、その後は最低3日のオフィス勤務を義務付けるとしました(2021年9月現在、リモートワークの期限は延長されています)。この判断の背景には、新型コロナウイルスの状況下でリモートワークをせまられた多くの従業員から、今やオフィスで仕事がしたいという声があったということも理由の1つにあるようです。また、Amazonもワクチン接種率を鑑みて、徐々に従業員をオフィスに復帰させるつもりであると述べています。同社は、オフィス中心の勤務体系に戻すことが、効果的に従業員同士のコラボレーションを生むだろうと信じているそうです。
Airbnbのリモートワークに関する見方
Airbnbの働き方はどうでしょうか。同社は新型コロナウイルス蔓延前はテック企業としてはオーソドックスな働き方として、オフィスへの出社・対面でのコミュニケーションをベースとし、個人事情が発生する場合はフレキシブルにリモートワークにしていました。
Airbnbはブライアンが家族のように作り上げてきた組織だったこともあり、思想として人と人とのリアルな付き合いを大事にしていました。働く従業員によると、オフィスのインテリアデザインへのこだわりやオフィス内にある食堂のアットホームな運営に人と人とのつながりを大切にする文化が垣間見れたとのことでした。
新型コロナウイルス蔓延後、Airbnbは2022年9月1日まで、従業員にオフィス復帰の義務付けはしないとしています。実際に現在オフィスは従業員向けに開放されておらず、出社はできなくなっているとのこと。
さらにリモートワークについての今後について、ブライアンはインタビューで以下のように述べています。
ブライアンはAirbnbの従業員の働き方により柔軟性をもたせるようにあり方の検討を重ねていると述べ、サンフランシスコから他の州へと拠点を移す起業家やIT企業が相次ぐ中でも、Airbnbはカルフォルニアから拠点を移すつもりはないとしています。
さらに、ブライアンはインタビューにて、従業員のために「どこでもライフスタイル(anywhere lifestyle)」を開発したいと述べました。Airbnbの事業を推進するなかで、人々の旅行と居住の境目はかなり薄くなってきたと感じているようです。従業員は本社の近くではなく、あらゆるところに住むようになる。どこに住むかを決めるハブとなるために本社が存在するといった思想を持っているようです。
現状、Airbnbはオフィスへの出社が可能になったタイミングでも、平日全日をオフィスで過ごすことは期待せず、対面式の働き方とリモートワークのバランスについてはまだ詳細を検討しているとのこと。同社はまず、サンフランシスコ在住の従業員に「どこでもライフスタイル(anywhere lifestyle)」のモデルになるようにと話したそうです。このモデルを成功させることで、従業員に対しての働き方の柔軟性を高めることを目的としています。
このようにリモートワークを積極的に取り入れる意志を示す一方で、クリエイティビティを重視するAirbnbでは、「人と人とのコラボレーションも不可欠だ」と述べています。「どこでもライフスタイル」と、実際に会うことでうまれるクリエイティブなコラボレーションのバランスをどのように取るかについては、今は焦りたくなく、1年をかけて取り組んでいきたいと述べました。
実際に働く従業員はAirbnbの働き方の未来をどう見ているか
ブライアンの発信の一方で、実際の従業員はコロナ禍の働き方、アフターコロナの働き方やAirbnbのメッセージをどう考えているのでしょうか。実際にAirbnbアメリカ本社に勤める従業員にインタビューを行いました。
ーリモートワークになってから、従業員のモチベーションを上げるような新しい動きはありますか?
コロナ前は、「この日は午後仕事せずにゴーカートでもしよう!」みたいなオフラインアクティビティもあったんですが、今はそれができないので、オンラインでのアクティビティに変わっています。Airbnbがサービスとして提供している「Airbnbエクスペリエンス」のオンライン版を従業員で行ったりしていますよ。加えて、数週間に一度はZoomで集まってクイズゲームだったり、タピオカを会社経費で買って、バーチャルティータイムみたいなことをしています。
ーそれはAirbnbが会社として推奨しているものなのでしょうか?
いえ、トップダウンで起こるようなことではなく、チームのプロダクトマネージャーのような人が起案することが多いですね。そうやってチームをモチベートしていくことが彼らの仕事ですから、そういう従業員から挙がることが多い印象ですね。
ーリモートワークになって、難しさを感じる部分はありますか?
どの会社もそうかもしれませんが、人に会うことによってエネルギーをもらうということは難しくなりましたね。もちろんZoomで時間をとってコミュニケーションすることも可能ですが、すごく積極的にやらないと難しくなったなと思います。モチベーションの創出と結びつく部分ですよね。もちろんリモートワークになって通勤しなくて良くなって喜んでいる人もいますが、これまで作り上げてきたカルチャーだったり、会社が積極的に従業員を楽しんでもらおうとしてきた文化が削ぎ落とされてしまうのは、味気なくて寂しいですよね。
ーリモートワークになって、ライフスタイルの変化はありますか?
パーマネントかどうかは定かでないですが、なかにはサンフランシスコやベイエリアから引っ越ししている人もいます。シアトルやハワイ、東海岸のようなところでいわゆるノマドワークみたいなことをしている人もいます。一方でおしなべてみると、通勤しなくてよくなったので交通費は浮きましたが、特にそれを特定の物に費やしているということはないような気がしますね。
ー実際にAirbnbの中で、アフターコロナを見据えた働き方についてどのような話が飛び交っていますか?
Airbnbは、もともと新型コロナウイルスが蔓延する前はリモートワークに振り切るのはあまり積極的ではなかったんです。理由としてはカルチャー構築の側面もありますし、ジュニア従業員についてはやはり対面で指導することの大切さに重きを置いている従業員も多くいました。コロナ禍になって考え方がシフトしているような感じもしますが、Airbnbのメッセージとしては「フルリモートにはコミットしたくない」という印象です。
もともと”belong anywhere”と対外に発信している一方で、従業員の働き方にフレキシビリティがないということに関して従業員から指摘があったこともあったんですよね。今はオフィス数の削減をしたり、従業員全員の生活におけるフレキシビリティを高めるとは言っているものの、未だ働き方へのはっきりとしたメッセージは出ていないですね。どうリモートとオフィス出社のバランス感で、もともとのアットホームな文化をどうキープしていくかというところを考えている最中なのではないでしょうか。
(編集後記)
Airbnb共同創業者であるブライアンのインタビューからは、アフターコロナの同社の働き方については思考中・実験中で、かなり慎重に考えているということが伝わってきました。その姿勢から、ブライアンが家族のように作り上げてきたAirbnb従業員たちとの接点や会社のカルチャーをいかに大事にしているかということを感じ取ることができました。
また、“Belong Anywhere”を提唱するAirbnbですら、積極的にコミュニケーションを取る意識を持つことをしないと、従業員同士のコミュニケーションや接点が希薄になってしまうことが懸念されていることも明らかに。日本でもフルリモートでの働き方を選択する企業が少しずつ増えているものの、カルチャーづくりの観点からは難しさを伴う部分もあるのかもしれません。Airbnbの働き方の先見から、リモートワークとオフィスワークのバランスについて、企業の性格や築き上げてきたカルチャーの側面から慎重に検討すべきだと学ぶことができました。
Reference
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Yahoo!Finance, Airbnb CEO: ‘Employees are in charge, not companies’ in push for remote work(最終閲覧日 2021年9月7日)
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編集・文:田中萌子