インタビューや講演の記事を元にして、ユニコーン企業が組織のエンゲージメントを高めるための取り組みをご紹介する「海外ユニコーンのHRレポート」。第一回目は、宿泊施設・民宿を貸し出すサービス「Airbnb」のエンゲージメントについてご紹介いたします。
創業者兼CEOであるブライアン・チェスキーが家賃の支払いに困窮していたとき、他人を泊めることで料金を取った経験から立ち上がったスタートアップ、Airbnb。今や「宿泊」の概念を変えた同社は、IPO目前と言われ、日本でもその存在感は徐々に大きくなりつつあります。
また、AirbnbはGlasdoorの選出する「Best Place to Work」に2年連続で選ばれる企業でもあります。そんなAirbnbから、私たちは組織エンゲージメントについて何が学べるでしょうか。
@Engagementグローバルリサーチ担当:田中萌子
https://twitter.com/om180611
体育会系グローバルマーケター。2015年、新卒で株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。ヘルスケア事業部にてマーケティング、セールス、部署人事の立ち上げと採用を経験した後、退職し単身フィリピンへ。2018年から教育事業の海外マーケティングを担当。普段は、セブ島で無限もくもく系シェアハウスWORKROOMの管理人。海外旅行と食べることと人狼が趣味。
AmazonやZapposに学んだ「コアバリュー」の確立
CEOのブライアンは、Zapposを訪れた際に、100名超の従業員全員が会社のコアバリューを諳(そら)んじて言えたことに衝撃を受けました。またスティーブ・ジョブズの「パッションを持つ人が世界を変えられる」にも強く共感しており「企業を永続させるためには、企業文化は意図的にデザインされるべき」と考えていました。
そこで、Airbnbは社員1人目を雇用する前に企業のコアバリューを創造しました。そのコアバリューは以下の6つでした。
※現在は”Simplify”と”Every Frame Matters”を抜いた4つがコアバリューとして定められています。
ブライアンはメンバー全員に下記のようなメールを送り、企業文化の大切さを共有するほど、コアバリューの維持に熱量を注いでいます。
コアバリューを創造することだけでなく、それを守ることにも尽力して企業文化を形成しているのがAirbnbの特徴のようです。
一方で、グロースや企業の製品リリースに関する情報に比べ、企業のコアバリューが語られる機会が決して多くないのは、下記の理由によるものだと言います。
1.その明確な必要性を求められることが少ないゆえに社内の文化を語る人が多くいないこと
2.コアバリューがどう意思決定に寄与するかが見えにくいこと
3.短期的には効果が現れにくいこと
キークエスチョンは「自分が世界の誰でも採用できるなら、今、目の前の人を採用するか?」
ブライアンは、チームを作るために一番はじめにすべきことは、”気が引けて居心地が悪くなるほどに優秀”な人でチームを作ることだと言います。
Airbnbの社員1人目は、ブライアンが何百、何千もの候補者と面接をして、6ヶ月後に決まったエンジニアのメンバーでした。彼らが社員を雇うのにそこまで多くの時間をかけたのは、1人目の社員は会社のDNAの一部を担ってもらうメンバーになると強く考えていたためです。彼らは面接をするたびに、「この人のような人を、もう100人ほしいかどうか?」を強く考え続け、6ヶ月ほどの月日をかけて採用をしたそうです。
その後もインタビューの際には、「もし自分が世界の誰でも採用できるなら、今、目の前の人を採用するか?」を自身に何度も問いかけていたとのこと。また、採用面接では、「あと余命が1年しかなくても、この仕事をするか?」を聞いていたそうです。採用する人が多くなったタイミングでも、前に採用した人よりも優れた人であるかを疑い、常にバーを上げて人を採用してきました。
また、Airbnbの採用では、部署に関連するメンバーとのインタビューに加えて、創業者によって選ばれた、”コアバリュー面接官”とのインタビューが設けられ、Airbnbに必要な経験・理解・マインドセットについて話します。
“コアバリュー面接官”による面接は、一般的な会話を行うようなスタイルの面接で、会社のビジョンを共有し、一緒に働けるような『人間性』を持った人物なのかどうかを見極めるために行われます。聞かれる質問には、「これまで誰かにしたことのなかで、一番相手のためになったことは何か?」などがあるそう。また、日本法人で採用を行う場合でも、視点が偏らないように、日本以外の国の面接官も参加することがあるそうです。
規模が大きくなった今でも、同じ価値観を持つ、会社の中核となる人物を見つけることに徹底的にこだわっている姿が伺えますね。Airbnbは「コアバリュー」とそれに共感する「人」ありきで成長してきたことがよくわかります。
Employee Experienceによるオンボーディング
Airbnbには、いわゆる「HR」は存在せず、タレントマネジメント、リクルーティング、管理業務関連などを束ねた、HRよりも大きな概念である「Employee Experience」という部署が存在します。当部署により、新しいメンバーは、帰属意識を持ってもらうことを目的として、同時期にオファーを受けた入社メンバーとともに1週間のチェックインプロセスを経ることとなります。
具体的には、一緒に働くメンバーを理解するために、ランチや通常のミーティングなど、複数の形式でチームメンバーと出会う体験が設計されています。チームに配属される際には、新しいメンバー全員に、自分がどんな人なのか、どういう経緯で、なぜAirbnbで働くことにしたのかを伝えてもらいます。
出社初日のメンバーのデスク。手作りのデコレーションでお出迎え。(”First Day to First Launch“より)
また、新入社員には、オンボーディングプロセスの一環として、入社1日目にAirbnbに付け加えるべき新しい機能を考えるようにと促されるそうです。実際に、新入社員のあるデザイナーが、「ウィッシュリストに追加するための「星をつける」機能を、星からハートに変えるべきだ」と提案しそのとおりに変えたところ、エンゲージメントが30%アップしたそうです。
このようなオンボーディングの方法では、「偉大なアイデアはどこからでも湧き起こる」というAirbnbの信条が示され、また、新入社員は社内の文化を体感・理解することができますね。
(編集後記)
「Best Place to Work」に2年連続で選出されるほど、従業員のエンゲージメントが高いAirbnb。組織づくりについて、成功している企業から徹底的に学び、初期の頃からブレないコアバリューを守り続けてきたことが、組織開発の背景となっているようです。
そのコアバリューを守るために、会社の文化に沿う人物かどうかを見極めるために、”コアバリュー面接官”が存在し、面接を行うというのがかなり特徴的でした。
「世界の人事から」では、特集する企業を募集しています!こんな企業を取り上げてほしいというご希望があれば、私のTwitter(@om180611)もしくは@Engagementのフォーム(こちら)まで。
Reference
Lecture 10 – Culture (Brian Chesky, Alfred Lin), Youtube(最終閲覧日 2019年2月10日)
https://www.youtube.com/watch?v=RfWgVWGEuGE
First Day to First Launch(最終閲覧日 2019年2月11日)
https://airbnb.design/first-day-to-first-launch/
How Airbnb is Building its Culture Through Belonging (最終閲覧日 2019年2月9日)
https://blog.cultureamp.com/how-airbnb-is-building-its-culture-through-belonging
How Design Thinking Transformed Airbnb from a Failing Startup to a Billion Dollar Business (最終閲覧日 2019年2月11日)
https://firstround.com/review/How-design-thinking-transformed-Airbnb-from-failing-startup-to-billion-dollar-business/
編集・文:田中萌子
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