【世界の人事から】SlackやNIKEも導入するリアルタイム評価ツール「Culture Amp」とは

GE、Google、Netflixなど米国企業の人事・組織開発における取り組みは常に注目を集めています。より強い競争力を保つためにどのような組織づくりの形が最適解と言えるのか?その思考と実験は日本国内の1歩先を常に歩んでいます。

そこで、@Engagementでは、海外企業の組織づくりの取り組みやHRTechと呼ばれるツールを紹介するコーナー「世界の人事から」をスタートします。

第1弾は、マクドナルド、Slack、NIKE、Oracleなど、海外では最も多くの企業が利用しているリアルタイム評価ツール”Culture Amp”を紹介します。ここまで多くのメジャーカンパニーに導入されるに至った役割や効果について、海外在住の私が見た、”リアル”をレポートします。

 


@Engagementグローバルリサーチ担当:田中萌子
体育会系グローバルマーケター。2015年、新卒で株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。ヘルスケア事業部にてマーケティング、セールス、部署人事の立ち上げと採用を経験した後、退職し単身フィリピンへ。2018年から教育事業の海外マーケティングを担当。普段は、セブ島で無限もくもく系シェアハウスWORKROOMの管理人。海外旅行と食べることが趣味。


社員の専門性や強みを伸ばすリアルタイム評価

様々な技術が発達し、求められる能力が急速に変化する今日、”半期や年度に1度の評価方法”はすでに時代遅れとされる傾向にあります。

2000年以降、その概念を広めたGE社を始めとして、多くのアメリカ企業において一般的に行われてきた「スタック・ランキング」を廃止する企業が徐々に増えてきました。

「スタック・ランキング」制度とは、パフォーマンスによって従業員をランク付けし、期末に評価を行うというもの。この評価制度には、企業や社員の成長を考えると、半年や1年単位での評価が遅すぎることや、評価がマネージャーの主観によってしまうという問題点がありました。

スタック・ランキングが見直され、利用され始めたのが「リアルタイム評価」。

実際に、AccentureやDeloitte、Adobeなどの名だたる多くの企業が「昔ながらの」評価方法を見直し、新たな評価システムである「リアルタイム評価」を導入されています。

この評価方法により、社員と組織のコミュニケーション頻度が増え、結果として社員の専門性や個人の強みを伸ばすための対話が増えます。この対話が増えることにより、社員の生産性向上や、会社へのエンゲージメントをもたらすことが期待されます。

 

リアルタイム評価ツール ”Culture Amp”とは?

マクドナルド、Slack、NIKE、Oracleなど、海外では最も多くの企業が利用しているリアルタイム評価ツール、Culture Amp。サンフランシスコに拠点を構え、企業文化を大事にする会社を増やすという想いのもとサービスを展開しています。

Culture Ampが提供するアンケートを用いると、社員のエンゲージメントや仕事のパフォーマンスなどを定量的に分析することができます。Culture Ampが特徴的なのは、利用するアンケートが、心理学者やデータサイエンティストなどの学者たちによって設計されていること。科学的根拠にもとづいたCulture Ampのアンケートの結果を用いることで、感覚的ではない、科学的な組織づくりを目指すことが可能になります。

 

自己成長の体感」が組織へのエンゲージメントを高める

リアルタイム評価に強みを持つCulture Ampを利用すると、

  • 同僚間や上司と部下の間で、パフォーマンスへの評価がリアルタイムで行われるため、社員が内省しやすい
  • ミーティングやプロジェクトなどの小さな単位ごとに自身へのコメントがもらえるため、改善がしやすい
  • マネージャーが科学的・相対的に社員を評価し、社員もその評価に納得ができる
  • 組織の状態が可視化され、問題にすぐに気づくことができる

といった効果がもたらされます。

半期や年度に一度の評価は、どの部分を評価されたかが被評価者にわかりにくく改善がしづらいこと、また、一方向的なフィードバックに重点が置かれ、被評価者が評価に納得しづらいことが問題点として挙げられます。

Culture Ampを用いたリアルタイム評価は、被評価者の自身の立ち位置が常に可視化され、改善へのモチベーションが持続しやすい印象を持ちました。定量的な評価を常に見ることができることからも、社員自身が自己成長を体感しやすく、結果的に会社へのエンゲージメントが強くなるのではないでしょうか。

 

企業のフェーズに最適化されたサーベイを提供

Culture Ampを利用するステップは、まずはサーベイを選択するところからはじまります。実際にCulture Ampでは複数のテンプレートが用意されており、常にアップデートされ続けています。それぞれ企業の課題やフェーズ単位で最適なものを選択することができるようになっています。

 

▼サーベイアンケートのテンプレート

Baseline Engagement – 社員のエンゲージメントを図るアンケート。社員の入社理由と、入社後のギャップを定量化し、現在の働き方に関してどう思っているのかを知ることができます。

Diversity and Inclusion – 国籍やジェンダー・学歴などのダイバーシティーや、インクルージョン(全社員が各々の経験、能力、考え方が認められ活かされている状態のこと)を構築するためのサーベイです。

Individual Effectivenes – 同僚間や部下と上司間など、多方向からの360度評価を用いて、その人の伸ばすべき強みや領域などのフィードバックを定量的・定性的に実施できます。

Manager Effectiveness – リーダーシップスキルやマネージャーとしての振る舞いを評価することができます。

Wellbeing Survey – PERMAポジティブ心理モデルと呼ばれる概念を使用した、社内での心理的な状況に加え、活力、睡眠、業務量などの身体的・精神的な要素についての実態を把握できます。

Onboarding Survey – 新入社員が入社を決めた理由、入社後に働きがいに関して把握できます。

なかでも、「Individual Effectiveness」はリアルタイム評価に特化した、Culture Ampの中でもモチベーション向上に強みを持つ特徴的なアンケートです。

 

成長のために仲間同士でポジ・ネガをフィードバック

▼Individual Effectivenessの画面


*「Individual Effectiveness」の評価画面。プロジェクトや業務ごとに、自分の強みと思われている項目や改善すべき評価項目が表示されます。「PROBLEM SOLVING(課題に対して実用的な解決策を提示する)」という項目が、マネージャーや同僚など計5名から評価されていることがわかります。

「Individual Effectiveness」は、メンバー成長のためにあらゆる方向からフィードバックが行われるだけではなく、それぞれのフィードバックを総合して、チームとしての状態を計測することにも活用できる点がとてもユニークです。

 

<Culture Ampの360度フィードバックの流れ>

1.各社員がキャリアにおけるマイルストンや目標を設定します

2.360度評価に対するアクションの壁打ち相手となる「コーチ」を指名(コーチは人事担当者、マネージャーレベルの社員から指名)

3.主にプロジェクトや業務の主要なマイルストンが完了したタイミングで、業務上関わりのある社員やマネージャーを評価者として指名します

4.各項目に対して、セルフフィードバックを行います

5.指名された評価者は、定められた項目を下記の2つの質問を基準に評価します。
・今後も伸ばしたほうがいいことはなにか?
・本人やチームがより成功するために本人が最も集中すべきことはなにか?

6.評価者は、評価と具体的なコメントを必ず入力します

7.被評価者は、評価とコメントを確認します

8.自身の強みが活かされたところ、よりよくしていく部分をTake Actionという項目に残し、コーチへ通知

9.コーチと結果についてディスカッションしたのち、レビューが完了します

 

評価項目は細分化され、下記項目(一部)があります。

  • チームプレイヤー:自身の役割だけでなく、役割外の物事を率先して行ったか
  • オーナーシップ:チームをリードし、なにかにオーナーシップを発揮したか
  • チームビルダー:メンバーに効率的な業務遂行をしてもらうことができたか
  • プロダクティブ:時間が限られている中で、高い質の仕事を行ったか
  • イノベーティブ:新しい方法を開拓するために、革新的なアイデアやアプローチを試したかどうか

このフィードバックにより、同僚や上司に評価されている自分の強みや、所属するチームを強くするために磨くべきスキルを客観的に知ることができます。また、期間で評価タイミングが決まっているわけではなく、プロジェクトや業務ごとに評価が行われるため、仕事の進め方をリアルタイムで振り返ることができます。

 

チーム単位のフィードバック結果をチーム間で比較

個人の360度評価に加えて、チームへの評価もリアルタイムで行うことができます。メンバーがチームに対して定められた項目の評価を行い、その結果をメンバー全員が確認できるようになっています。また、自部署だけではなく、他部署の評価を含めて確認することができるため、自分が所属する部署が相対的にどのような状態にあるのかを知ることができます。

▼評価バルーン


*自部署の状態をチェックする際に確認する画面です。それぞれの項目がバルーンとなりマッピング表示され、バルーンをクリックすると、評価についての詳細なコメントが現れます。

評価項目は多岐にわたり、「ワークライフバランス」が評価対象項目となっていたり、日本にはまだ浸透しない概念である「イネーブルメント」(適切な決断のために、適切なリソースにリーチできる能力)も項目として存在します。

評価はステータス関係なく社員全員によって行われ、リルタイムで部署ごとに数値が平均化されます。すべての部署の数値が公開されていることで、ある部署に重大な問題があるように思われる場合には、人事や部署外からアラートが挙げやすくなります。相互的監視力が働き、自ずと会社全体のエンゲージメントの底上げがなされます。

 

▼各部署各項目ごとのエンゲージメント


*部署別の項目別評価を相対的に比較することができます。

各社員のリアルタイムフィードバックと部署別の相対的評価により、各部署のマネージャーは、部下が同僚にどう評価されフィードバックを受けたかを都度認識することができ、部署ごとの評価数値を参考にして、マネジメントをどのように行うべきかを常時考え直すことが可能となります。マネージャーが自身のものさしで部下を評価することがなくなるため、より効果的なマネジメントが期待できます。

 

“評価”そのものを評価し直す必要性

組織と社員が対等な関係であることが前提にされる今、評価制度は、給与査定や階級のために存在するのではなく、社員自身の強みを伸ばしたり、よりチームが強固であり続けることに焦点が当たるべきだと感じます。組織から社員への一方向的な評価は、それ自体を評価し直すことが必要なのではないでしょうか。

リアルタイム評価という一例を通じて、社員を中心に評価を考えた、組織と個々のエンゲージメントを強くする評価方法がもっと多くの組織に浸透するといいなと考えます。

 

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Reference
How Stack Ranking Corrupts Culture, at Uber and Beyond(最終閲覧日:2018年10月28日)
https://www.perdoo.com/blog/stack-ranking/

Culture Amp(最終閲覧日:2018年10月28日)
https://www.cultureamp.com/

6 Reasons Why Your Company Needs Real-Time Feedback(最終閲覧日:2018/10/18)
https://blog.impraise.com/360-feedback/6-reasons-your-company-needs-real-time-feedback

 

編集・文:田中萌子 
イラスト:皐月透弥

News Letter

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    koji nozaki

    @Engagement編集長 / 株式会社トラックレコード代表取締役(共同経営者)。DeNAでの人事プロジェクト「フルスイング」の責任者、MERYの雑誌事業責任者やブランディング責任者などをつとめ、株式会社トラックレコードを2018年に設立。