ユニコーン企業に仲間入り。今注目の採用プラットフォーム「Gem」とは?

海外の最先端のHRtechを紹介する「世界のHRtech」。今回は、次世代の採用プラットフォームを提供する「Gem」をご紹介します。(註:2021年12月2日現在、日本語でのサービス提供はありません)

Gemは、2021年9月、シリーズCラウンドにおいて約1億ドルの資金調達を実施したと発表。評価額は約12億ドルに達し、新たにユニコーン企業の1社となりました。

100社以上のユニコーン企業の採用活動を支え、自らもユニコーンの仲間入りをしたGemのサービスとはどのようなものなのでしょうか。

 

スプレッドシート管理の限界とGemの誕生

Gem(旧社名ZenSourcer)は、MITのクラスメイトであったスティーブ・バーテルとニック・ブシャークが2017年に創業したサンフランシスコの企業です。創業前、彼らは当時ともに採用強化を図っていたDropbox社とFacebook社で、それぞれエンジニアリングマネージャーとして採用に携わっていました。

アメリカではそのころすでに、リクルーターや採用担当者が未来の社員を発掘するためのツールとしてLinkedInが市場を席巻しており、創業者のふたりもその効果を目の当たりにしていました。LinkedInのおかげで、求職者のスカウトは以前と比較してたしかに容易になりました。しかしそれは同時に、求職者の応募を待っているだけではもはや理想の人材を確保することはできず、彼らが積極的に新しい職を探し始める前の段階からアプローチを始め、他社に先駆けて獲得に動く必要が出てきたことを意味していました。

問題は、発掘した人材とのコミュニケーションのトラッキングやパイプライン管理に、スプレッドシートが使われていたことです。スプレッドシートを駆使した作業はどうしても煩雑で非効率的になってしまいます。バーテルとブシャークは、熾烈な人材獲得競争を勝ち抜くためにはリクルーターのためにつくられた専用のソフトウェアが必要だと考え、Gemを開発しました。

セールス&マーケティングの世界では、Saleseforceに代表されるSFAシステム(営業支援システム)やCRMツール(顧客管理ツール)の導入はすでに一般的となっていますが、Gemはいわば採用版Salesforceとして、潜在的な候補者との関係構築や採用管理に必要なさまざまなツールと連動し、より効率的な採用活動をサポートしています。 

Gemは現在、DropboxやSlackをはじめとする800社以上の企業で活用されています。その魅力はどこにあるのでしょうか。

(Gemのクライアント例 出典:https://www.gem.com/

 

「攻めの採用」をサポートするGem

日本でもすでにさまざまなATS(採用管理ツール)が提供されており、多くの企業が優秀な人材の確保のためにATSを導入しています。すでに導入済みのATSとの違いはなんだろう、と疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ポイントは、ATSが応募者情報と選考の進行状況の管理、すなわちインバウンドの応募(待ちの採用)の管理がメインであるのに対し、Gemは「攻めの採用」をサポートする、という点です。

Gemは、人材の発掘に有効なLinkedInやTwitter、GitHubといったソーシャルサイトと、発掘した人材とのコミュニケーションに使用するメールサービス、そしてATSなど「攻めの採用」に必要な各種ツールを統合し、応募前の人材を含めた情報の一元管理を可能にします。Gemに一元化したデータは可視化され、ダイバーシティに関する分析や、最初のコンタクトから採用にいたるまでのパイプラン管理も容易となるため、スプレッドシートと格闘する必要がなくなります。また、フォローアップメールの自動化によって、これまで人海戦術的に行われていた、”優秀だけれども積極的に就職活動を行っているわけではない人材との関係構築”のプロセスを最適化し、よりよいタイミングでアプローチをすることが可能になります。

具体的になにがどう便利なのか、後ほどGemの特徴的な機能を3つに分けてご紹介しますが、その前にまずは、プロダクトデザインを見てみたいと思います。

 

親しみやすく、直感的な操作が可能なデザイン

採用サイトのアクセス分析などでGoogleアナリティクスを利用したことのある方であれば、Gemのダッシュボードには親しみを感じるのではないでしょうか。

Gemのフラットなデザインは最新の流行ではありませんが、シンプルでわかりやすく、直感的な操作を可能にしています。

(Gemのダッシュボード 出典:https://www.gem.com/blog/gem-product-update-august-2021

 

また、データ管理および分析の核となるフィルタリング・グルーピング機能は秀逸で、さまざまな切り口で瞬時にデータを可視化することができます。

(Gemのパイプライン分析画面 出典:https://www.gem.com/blog/gem-product-update-february-2021

 

Gemの機能その1:ソーシャルサイトとの連携

Gemは、Google Chromeの拡張機能を提供しています。例えば、LinkedInで魅力的な人材を見つけたとしましょう。Gemの拡張機能を利用すると、まずはその人材がすでにGemやATSに登録されていないか、チームの他のメンバーが過去にそのプロフィールを閲覧しているか、コンタクトを取ったことがあるか、といった履歴を知ることができます。

プロフィールの登録がない人材を潜在的な候補者として新たにGemに登録したい場合も、情報を手入力する必要はありません。LinkedInからプロフィールのPDFを保存すると、自動的にGem内でプロフィールが生成されます。PDFのアップロードすら不要です。

(Gemによるデモ動画 出典:https://youtu.be/sVO8WNhr9_Y

 

プロフィールが生成されれば、LinkedInで閲覧中の画面から移動することなく、その人材をGemで作成したタレントプールのグループに登録したり、メールを送ったりすることが可能です。

事前に用意したメールテンプレートを活用して1通目のメールを送ることはもちろん、1週間以内に返信がなければ2通目を送信する、といったフォローアップメールの設定をすることもできます。また、文面のカスタマイズや、送信者を部門担当VPにするなどの変更も行えるため、パーソナライズが容易です。

Gemの機能その2:パイプライン分析

Gemのパイプライン分析を活用すれば、採用活動のどのプロセスに課題があり、目標達成のためになにを改善すべきかをデータから判断できるようになります。部署ごとに各フェーズの通過率を確認できるため、応募が多いにもかかわらず、書類審査の通過率が低く面接に至らないというような問題点を、部署単位で抽出することが可能です。

さらに各部署の状況を深掘りすることで、同一部署内でも職種ごとに採用に至らなかった理由を確認することができます。

(Gemによるデモ動画 出典:https://youtu.be/y2FRwlhGuFQ

 

スキル不足で不採用になっているケースが多い場合、人事チームの採用担当がアプローチしている人材が、チームの求める人材の条件とマッチしているか、すり合わせをする必要がありそうです。報酬が理由での辞退が多い場合は、市場での平均的な報酬額と自社の提示している条件に大きなギャップがないか、確認するべきかもしれません。

 

また、採用チャネルごとのファネル分析により、目標達成のためにどのチャネルを強化すべきかも一目瞭然となります。採用サイトからの応募が採用に繋がりやすいのか、エージェントがすばらしい働きをしているのか、はたまたダイレクトリクルーティングが効果を生んでいるのか、データを可視化し次の戦略立案に活かすことで、より効率的に優秀な人材を獲得することが可能になります

Gemの機能その3:ダイバーシティ管理

これまでにご紹介してきた機能は、採用のプロセスを効率化し、採用スピードを数倍に速めるために開発されました。しかし近年では、単に優秀な人材を獲得するだけでは十分ではなく、ジェンダーや人種/民族の多様性を確保することが企業の社会的責任であり、なおかつ価値創造にもつながると考える企業が増えています。

ただし、企業がジェンダー比率や人種/民族の多様性に課題を感じていても、なぜ偏りが発生しているのかがブラックボックスのままでは、状況を改善することはできません。ジェンダーや人種/民族ごとのパイプライン管理も可能なGemは、多様性の確保という観点からも注目のサービスです。

Gemでは、これらのデータは基本的に候補者の自己申告に依拠していますが、応募前のファネル最上部の段階などで自己申告のデータが得られない場合には、それらを予測するアルゴリズムが活用されています。CEOで共同創業者のバーテルによれば、このアルゴリズムは、その予測結果を個人のプロフィールに割り当てるものではなく、あくまでも全体の傾向を知るために利用されているとのことです。もしもジェンダーや人種/民族によって通過率や辞退率が著しく異なるフェーズが見つかったなら、インタビュアーの選定や会話の内容に改善の余地があるかもしれません。 

 

(Gemによるデモ動画 出典:https://youtu.be/NKRK1-FJet0

それぞれのリクルーターが送ったメッセージの開封率や返信率を人種/民族ごとに可視化することも可能です。突出した結果を出しているリクルーターがいる場合には、そのリクルーターのアプローチ方法やメールテンプレートをチーム内で共有することで、チーム全体の返信率向上を図ることができるでしょう。

 

今後の展望

Gemは今年大躍進を遂げ、今回の調達に関するリリースのなかでは、年間経常収益(ARR)が3倍、顧客数は2倍になり、企業との平均取引額が70%増加したと発表されています。

​​エンタープライズ分野での売上継続率(NRR)は120%を超えるGemですが、今後はフォーチュン500にランクインする企業への認知を拡大するため、市場開拓の強化に乗り出すとのことです。また、グローバル展開を継続し、特に西ヨーロッパなどの高成長エリアの拠点への投資を増やす予定であるとアナウンスしています。

プロダクトについては、主に次の5つの分野への投資が伝えられています。

  • Talent Reporting & Insights — 採用に携わるすべての人が、必要な採用指標を簡単に確認できるようにするための、ダッシュボードのカスタマイズ機能をはじめとした、パイプライン分析分野の機能強化
  • Talent Engagement — 積極的に就職活動をしていない潜在的な候補者との良好な関係構築を大規模に行うための、新しいチャネルや技術の開発
  • Talent Marketing — ブランド独自のメールテンプレートをはじめとした、イベントやキャンパスリクルーティング、広告などの採用マーケティングに必要なプロダクトの追加
  • Simpler Workflows & Collaboration — GemとATSに登録されたプロフィールを横断的に検索して新しい職種のための人材プールを構築できるようにするというような、効率化の領域拡大
  • Deeper integration support — カスタマーの利便性をさらに高めるための、統合機能の強化

 

効率化への投資は優秀な人材獲得のための第一歩

ここまで、Gemがいかに採用担当者の作業を効率化してくれるかをご紹介してきました。スプレッドシートを駆使して採用目標の達成状況を可視化したり、候補者の情報を手入力したり、メールテンプレートをコピー&ペーストして大量のメッセージを送ったりすることは、採用担当者やリクルーターにとって、大変な作業です。こういった「作業」の部分を効率化することで、彼らはより多くの時間を、獲得したい人材との関係構築にあてることができるようになります

また、パイプライン管理を適切に行い、定期的にレビュー・改善を繰り返すことで、担当者のスキルに依存しがちなダイレクトリクルーティングの効果を、チーム全体で向上させることが可能となるでしょう。

効率化のための投資は、人材獲得競争を勝ち抜き、求める優秀な人材を獲得するための第一歩と言えるかもしれません。

 


執筆:@Engagementライター 齋藤 由香
ひとが動くきっかけづくりが仕事のサラリーマン。健康第一。


 

 

Reference

gem.com(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://www.gem.com/

Gem Raises $37 Million In Effort To Become The Middleman Between LinkedIn And Workday(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://www.forbes.com/sites/kenrickcai/2020/07/16/gem-raises-37-million-in-effort-to-become-the-middleman-between-linkedin-and-workday/?sh=29f837dd1123

The importance of data analysis for improving D&I in recruiting(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://www.hrdive.com/news/the-importance-of-data-analysis-for-improving-di-in-recruiting/604058/

Gem + SmartRecruiters: Talent Engagement & Nurture(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://youtu.be/sVO8WNhr9_Y

Streamlining Your Hiring Process(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://youtu.be/y2FRwlhGuFQ

Building a Rich and Ready Pipeline to Meet Your Diversity Goals(最終閲覧日 2021年11月18日)
https://youtu.be/NKRK1-FJet0

 

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    Moeko Tanaka

    @Engagement編集長兼リサーチャー/ライター。セブ島に住んでいます。