世界で活躍するリーダーたちの寄稿記事を翻訳しご紹介する「グローバルリーダーからのメッセージ」。Sega of AmericaやNetflixでVPを勤めた経験もあるギブソン・ビドルが、自身の経験についてを、リーダーに向けてMediumに寄稿した記事の最終章です。最終章は、ギブソンがリーダーになる過程と、その過程での学びについてのメッセージです。

ギブソン・ビドル(Gibson Biddle)
2005年よりVP of ProductとしてNetflixに参画。Chegg社にてChief Product Officerのほか、The Leading CompanyでVP、Sega of AmericaにてVP of Product Developmentを務めた経験を持つ。現在はNerdWalletのBoard Observer, Executive-In-Residence Productとして勤務する傍ら、Stanford大学でアントレプレナーシップの講師、メンターとしても活躍。
リーダーへの道のり
1995年、私はセサミ・ストリートとの独占的な関係を基盤に、共同設立者とともに教育ソフトウェアの会社である「Creative Wonders」をローンチさせました。私には経験が不足していたため、CEOが私の上司としてプロダクト責任者を採用してくれたときには安心感を覚えました。
私は当時、責任者になりたかったわけではありません。それどころか、経営陣を「お偉いさん方」といった風に揶揄して見下していたほどです。私は自分の仕事を愛していました。
なぜなら当時の仕事はとてもフレキシブルであり、午後5時にサンフランシスコ湾にウィンドサーフィンに出かけ、短パンとビーチサンダルで職場に帰ってくるようなことも許されていたのです。ドアからはみ出た書類の山を見れば、誰でもすぐにそこが私のデスクであると分かったことでしょう。
残念なことに、1997年にプロダクト責任者が会社を去りました。同年、CEOであるグレッグ・べスティックが私に言ったのです「ギブ、リーダーシップとは象徴的なものだ」と。
私ははじめ、彼の言葉の意味がさっぱり分かりませんでしたが、しだいに、身なりを良くしたり、デスクを整理整頓したり、経営陣と顔を合わせることを要求されているのだと悟っていきました。
グレッグは、私が新たなプロダクト責任者の筆頭候補であると信じていましたが、他の経営陣はその意見に対して慎重な態度をとっていました。つまりグレッグは、私に責任者の象徴としての役割を自覚してほしかったのです。そしてこれは、この年の私のリーダーシップに関する教訓の一つとなりました。
その1ヶ月後、私はプロダクトの責任者へと昇進しました。そして昇進の次の日、グレッグは私に、米国最大の教育ソフトウェア・パブリッシャーであるThe Learning Company (TLC)が、我が社を買収したがっていることを知らせてきたのです。
私はこの買収をポジティブに捉えていました。私たちの作ったソフトウェアが、これまでよりも多くの家庭に届けることが可能になるだけでなく、キャリアを考えた上でも大きなチャンスであると考えたのです。
一方で、買収によって私たちが独立性を失えば、チームにネガティブな影響が及ぶことも考えられました。私は、そうしたメリットとデメリットの両者を受け入れなければならないことを知るようになりました。
そのため、TLCが私たちに、レッドウッドシティにあった我が社のビルからフリーモントにある彼らの本社までの「引っ越し」を要請してきたとき、別段驚くことはありませんでした。そうなれば従業員の通勤時間は30分も延びてしまいますが、残念ながらその事実を彼らに伝えるのが私の仕事でした。
日常生活で学んだ「金魚鉢ストラテジー」
そんなとき、意外にもローカルのペットショップのオーナーの言葉が、コミュニケーションのヒントとなりました。私はよく、3歳になる子どものためにペットショップで金魚を買って帰りました。そして私が店を出るときいつも、オーナーは私に次のようなアドバイスをしたのです。「金魚を家に持ち帰ったら、袋のまま水につけて慣れさせてあげた後に、袋を引き上げるといいよ」
(=買収される側であるはずのギブソンらが、買収後にアクティブに活躍するためには、相手の組織に慣れることが必要であるとギブソン自身が学習した)
その翌日、私はチームに対して買収のメリットとデメリットについて述べた後に、引っ越しについて伝えました。そして私は、ペットショップのオーナーに教わった「金魚鉢ストラテジー」について次のように説明したのです。私たちはTLCの中で、同じ組織や報告体制を保ちながらも両翼を持つこととなりますが、6ヶ月後には、「袋を引き上げる」(TLC内で主導権を握る)ことができると。
1ヶ月後、私たちは引っ越しを完了させました。ときにはチームから不満の声も漏れましたが、それよりも「金魚鉢ストラテジー」によるポジティブな声のほうが多く聞こえてきました。
金魚鉢ストラテジーの言葉が、引っ越しといった変化を最大限好ましい状況だと捉えるためのコンテクストを提供していたのです。この引っ越しによって、私は2つ目のリーダーシップに関する教訓を得ることとなります。それは、コントロールによってではなくコンテクストによってレバレッジを効かせるということです。
私たちが6ヶ月後に「袋を引き上げた(TLC内での主導権を握れた)」ため、この買収は非常にうまくいきました。実際に私の上司はTLCの社長となり、私はTLCのプロダクトを包括的に管理する責任者になり、私のレポートは社内で大きな意味を持つようになりました。そしてその年、私たちは教育ソフトウェアのマーケットを50%以上支配するために4つの企業を買収、その後自らを42億ドルでMattelへと売却したのです。
責任者というロールを得るために必要な5つのこと
どの昇進の場面においても、私はとてもタイミングよく、適切な場所にいました。しかし、そうした成功のために私が意図的に実践していたこともあり、中でも以下のようなことは誰にでも模倣ができると思っています。
1.成長著しい企業で働く:
企業の成長こそが「責任者」レベルの役割を生んだり、私の身に起こったような最前線への昇進を実現させてくれます。
2.成果を出す:
私は多大な収益を生むCD-ROMソフトウェアの製造・流通・マーケティングについて学び、セサミ・ストリートとの長期にわたる独占的な契約を得ました。
3.企業のカルチャーを行動で示す:
企業の理念は誰を雇うか、解雇するか、あるいは昇進させるかといった行動から明らかになります。私のやり方は、当時は一風変わっていたかもしれませんが、それこそが私が「企業のカルチャーそのもの」であったということです。
4.能力の高い人を雇い、訓練する:
素晴らしいチームは結果をもたらしてくれるだけでなく、もしチームの中であなたのように仕事ができる人材が現れれば、あなたが責任者ロールに就く見込みは高まります。
5.リーダーシップのデモンストレーションをする:
実際のリーダーではなくても、リーダーシップを発揮できる機会は多く存在しています。私は責任者となる前、セサミ・ストリートとの関係で先頭に立ち、ニューヨーク・ベースの非営利団体とシリコンバレーのスタートアップがいかに協力すれば効率的な仕事ができるのかといったディレクションをおこないました。
結局、リーダーになるための方法はシンプルなものです。責任者の仕事を受け持つに値する成長著しい企業で、責任者として結果を出せばよいのです。
25年間を通して、こうしたリーダーシップに関するスキルやツール、あるいは習慣を活用することで、私は大きなチームを率いてきました。しかし時々、新たなリーダーシップに関するチャレンジに遭遇したときには、私はこのフレーズを繰り返します。
「Leaders Lead(リーダーとは導く者である)」
(編集後記)
今となっては名前がよく聞かれる企業となったNetflix。ここに至るまでのストーリーに、失敗経験から学び考え抜いた”強い”リーダーの存在と、素直に失敗を認め、何が自分に足りなかったかをメンバーに示す強さを持つリーダーシップの大切さを見ることができました。
どんな組織にもリーダーシップへの正解はなく、リーダーは成長し続けるものだというメッセージは、リーダーシップを求められるポジションにある人への強い応援になるのではないでしょうか。
※翻訳文、見出しに一部編集を加えています。また原文の翻訳では、わかりにくい箇所があったため、一部編集部での解釈を加えて表記しています。事実と異なる箇所があった場合には編集部までご指摘ください。
編集/監訳

@Engagementグローバルリサーチ担当:田中萌子
https://twitter.com/om180611
体育会系グローバルマーケター。2015年、新卒で株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。ヘルスケア事業部にてマーケティング、セールス、部署人事の立ち上げと採用を経験した後、退職し単身フィリピンへ。2018年から教育事業の海外マーケティングを担当。普段は、セブ島で無限もくもく系シェアハウスWORKROOMの管理人。海外旅行と食べることと人狼が趣味。
Reference
Leaders Lead(最終閲覧日:2019年3月25日)
https://medium.com/speroventures/leaders-lead-bc920b4b74c7
Photo by Sri Lanka on Unsplash
Photo by Jehyun Sung on Unsplash
Photo by Daria Nepriakhina on Unsplash