時価総額5,000億円超の急成長をとげたOYOの組織マインド「OYOpreneurs」とは?

インタビューや講演の記事を元にして、ユニコーン企業が組織のエンゲージメントを高めるための取り組みをご紹介する「海外ユニコーンのHRレポート」。第二回は、日本マーケットへの参入が話題となったOYOを特集します。

OYOは、当時19歳だったリテシュ・アガルワルが、小さなホテルの空室在庫に気づき、それをビジネスにしようと2013年に創立。今や10ヶ国、500都市以上にまでマーケットを広げた同社は、スピード感を持ちダイナミックな考え方でユーザーにリーチを拡大しています。この姿勢は、「シリコンバレーの巨人」とも呼ばれるNetflixを参考にしています。

OYOはLinkedIn Top Startups 2018にてインド内のスタートアップ企業1位となり、組織エンゲージメントの側面でも学びの多い企業です。CEOのリテシュが考えるリーダー論・組織論を中心に、OYOの企業文化を掘り下げていきます。


@Engagementグローバルリサーチ担当:田中萌子
https://twitter.com/om180611
体育会系グローバルマーケター。2015年、新卒で株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。ヘルスケア事業部にてマーケティング、セールス、部署人事の立ち上げと採用を経験した後、退職し単身フィリピンへ。2018年から教育事業の海外マーケティングを担当。普段は、セブ島で無限もくもく系シェアハウスWORKROOMの管理人。海外旅行と食べることと人狼が趣味。


“Dream Big”と“Think Big”の浸透

CEOのリテシュは、世界にインパクトを与えるためには、大きな夢を抱く能力(=”Dream Big”と”Think Big”)が必要であると述べています。

幼い頃、エンジニア専攻のリテシュの姉が「Entrepreneurship Fest」に行くと言ったとき、リテシュはその言葉に強い関心を示し、辞書をひきました。Oxfordの辞書では、”Entrepreneur”は「問題を解決し、それをビジネスにする人」と定義されていました。

リテシュはこの言葉に惹かれ、初等教育時に、学校で教師たちに「何になりたいのか?」と聞かれた際に、「パイロット」や「エンジニア」という生徒が多くいた中で、ひとり「Entrepreneur」になりたいと言い続けました。

周りの生徒は「素敵な夢だと思うけど、どんな意味?」と反応を示し、彼は自分の夢を説明をするようになりました。このとき彼は、大きな夢を掲げることそのもの自体が誰かを刺激することなのだと気づき、それが”Dream Big”の始まりだったそうです。

また、彼が大学生になり、インドの起業家たちに会う際には必ず「君の世界で闘える武器は何か?」と毎回聞かれたと言います。この問いに常に答え続けるマインドを持つ環境にいられたことがリテシュにとって大きな機会となり、これが”Think Big”のマインド形成につながりました。

これらのリテシュの経験をもってOYOのメンバーはOYOと”Entrepreneur”をかけ合わせた造語で「OYOpreneurs」と呼ばれ、自分たちのアントレプレナーシップを常時想起させるような共通言語が浸透しています。また、意識的にTwitterやLinkedInでOYOpreneursのハッシュタグを社外へ発信をすることを心がけています。これは、社外から注目をあつめることで、自分たちの”Dream Big”や”Think Big”のマインドを律し続けることにも効果を発揮しています。

 

企業課題を解決するための”Think Big”

OYOの”Think Big”の考えは、企業課題の解決にもつながりました。

以前まで、OYOのハウスキーパーは、同じ業務時間で同じ給与が支払われていました。その支払いモデルにおける課題は、一部のハウスキーパーのみが良い動きをするのみで、全体へのイノベーションが生まれないことでした。この課題を解決するべく、OYOの全ハウスキーパーがアプリに登録されるようにし、清掃部屋のアサインをアプリによって決めるようにしました。

そのアプリ上で、一定のスピードで清掃を完了することができれば「クレジット」を支給し、その上でユーザーから高いレーティングがなされると、それがインセンティブとして現金で支払われる仕組みを作りました。また、元々清掃場所はハウスキーパーたちのマネージャーによって定義されていましたが、デジタル化することでマネージャーの稼働コストを減らすことにも成功しました。

この仕組みによって、全ハウスキーパーが様々なアイデアを考えるようになりました。例えば、もし素早く汚れを落とせる洗剤があるならば、彼らはそれを探して時間短縮に貢献します。さらに、見つけたアイデアをハウスキーパー同士で共有するようになります。このような取り組みのおかげで、各ホテルで20%のコスト削減になった一方で、ハウスキーパーたちは以前にも増して多くの給与が支払われるようになったのです。

 

マネジメントを科学する

組織内の透明性担保のため、OYOはメンバーの社内における心的状態を可視化するAIチャットボットであるAmberを利用しており、メンバーが、社内のボードメンバーとリアルタイムにコミュニケションを円滑に取れるような仕組みになっています。

オンボーディングを目的に会社の文化理解のための簡単な質問を定期的に投げかけたり、リアルタイムフィードバック機能を使ってメンバーの行動や感情を測定し、アラートが挙がったメンバーとボットがコミュニケーションをすることで、チームに存在する問題を浮かびあがらせ解決に臨みます。

OYOのCHROは「目に見える場でもそうでない場でも、オープンでコミュニケーションが活発な環境をプロ集団が求めると知っているからこそ、このような取り組みをしています」と述べています。

 

リーダーがすべきことは「何をしないかを伝えること」

リーダーとして、リテシュが意識していることは、理念に照らして「何をしないかを伝えること」だと言います。OYOがグローバルで成長するために、一貫して自分たちの理念に焦点を当て続けることが組織文化を底上げしていくことにつながると信じています。

彼は自身のことを「Chief Clarity Officer (最高明瞭責任者)」であると述べており、「何をしないかを伝えること」が仕事であると明言します。メンバーが新しいアイデアを思いついても、ボードメンバーはOYOの理念である「生活環境の質を上げる」ことに沿っているかを議論し、もしそうでないならば、すべきではないことであると明言します。

このスタンスを貫けるのは、リーダーとして、OYOの理念はメンバーだけではなく、OYOのサービスを提供するその先のユーザーのためであると信じているからです。

 

 

(編集後記)

OYOという企業のユニークさは、ビジョンや組織としてのあり方を、”Dream Big”や”OYOpreneur”など、覚えやすく且つパワフルなワードで共通言語的に持っていることではないかと感じました。すでに言い古されていることでも、自身の組織に照らしてどういうワードチョイスをして伝えることがベストなのかを考え、メンバーを導く。これを意識的に行うことができれば、組織のエンゲージメントも自ずと高まるのかもしれません。

「世界の人事から」では、特集する企業を募集しています!こんな企業を取り上げてほしいというご希望があれば、私のTwitter(@om180611)もしくは@Engagementのフォーム(こちら)まで。

 

 

Reference

OYO Founder Ritesh Agarwal Tells His Story at Young Turks Conclave 2018, YouTube(最終閲覧日 2019年4月2日)
https://www.youtube.com/watch?v=liV6iTZif-4

Startup Street: Why Oyo Is The Most Sought-After Startup Workplace(最終閲覧日 2019年4月2日)
https://www.bloombergquint.com/business/startup-street-why-oyo-is-the-most-sought-after-startup-workplace#gs.2gkjgn

LinkedIn Top Startups 2018: The 25 most sought-after startups in India(最終閲覧日 2019年4月2日)
https://www.linkedin.com/pulse/linkedin-top-startups-2018-25-most-sought-after-india-linkedin/

Airbnb in talks to invest in Oyo
https://www.ttgasia.com/2019/03/22/airbnb-in-talks-to-invest-in-oyo/

Seven and more reasons why OYO is the Netflix of the hospitality industry
https://medium.com/oyotech/seven-and-more-reasons-why-oyo-is-the-netflix-of-the-hospitality-industry-9ea1dd909332

 

編集・文:田中萌子

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    Moeko Tanaka

    @Engagement編集長兼リサーチャー/ライター。セブ島に住んでいます。