ビジュアルコンテンツ制作やフォトストック事業を手がける株式会社アマナのインナーコミュニケーションの取り組み社内メディア「amana knowledge board / アマナナレッジボード(以下「akb」)」。
広告制作案件で得た経験や知識は、往往にして属人的になってしまいがちです。それを「記事」という形式を通じて「社員個々人の知恵」を会社として共有し、横展開化する取り組みを行なっています。
開始から3年が経過し、現在の累積記事は2,500を超える規模に。社員の半数が毎日訪問し、月次訪問率はほぼ100%に達するまでに浸透している「akb」。本プロジェクトを立ち上げ、責任者をつとめる株式会社アマナ執行役員の下村さんへお話を伺いました。
下村 和功さん / 株式会社アマナ 執行役員
1999年、株式会社アマナに入社。プロデューサーと
毎日3-4本のコンテンツ配信を3年間継続して実行
–「akb」とはどんな取り組みですか?
「akb」は広告制作事例や社員紹介を記事形式で紹介する社員だけが閲覧できるメディアです。毎日3~4本の記事を朝・昼・晩に見てもらえるように配信しています。
–具体的にはどのようなコンテンツを展開されています?
人を軸にして社内のコト、モノ、ヒトに関するコンテンツを展開しています。
広告制作案件の記事であれば、クライアント企業様のキャンペーンや、その案件を形にするまでのストーリー、イベントや制作現場の裏事情などを紹介しています。プロデューサー、クリエイターそれぞれの視点で「どうやって仕事に至ったのか?」、「どのようにつくりあげたのか?」ということが伝わるコンテンツを提供しています。
社員個人の紹介は、社員が大事にしていることや、こだわりが伝わるコンテンツを配信しています。例えば、社員同士の繋がりを紹介する「交遊録」、社員の思い入れのある写真を日めくりカレンダーのように紹介する「アマナカレンダー」。
また社員のこれまでのキャリアを紹介する「アマナ人図鑑」や、中途入社社員の紹介コンテンツなども配信しています。
仕事をした人同士のつながりの濃さを可視化する
–コンテンツづくりのこだわりは?
「人を覚えてもらう・人と繋がる」ことにこだわりを持っています。
前提として、事例やノウハウを全て一人で覚えるのは限界があり、「●●●さんがやっていた×××の案件」という風に記憶してもらうことが大事だと思っています。それによって、例えば何か新しい仕事をはじめるときに「●●●さんに相談してみよう」という風に思い出してもらいたいからです。
実際に事例紹介の記事下には、スタッフリストを掲載しています。担当したプロデューサー、アートディレクター、カメラマンなどの名前が掲載されています。もちろん、ここから直接コンタクト(電話やメール)をすることもできます。
さらに、個人単位で繋がりがある人を一覧化していることで、一人の人を通じて新たな人を知るきっかけを作っています。
–この人のつながりを可視化しているのはなぜですか?
例えば、自分が一緒に仕事をしたことないクリエイターがいたとします。その人のつながりを見ると、自分と接点がある人がいたりすれば、その人を介して紹介してもらうことができます。その方がお互いに安心した状態でつながりあうことができるようになります。
社内のつながりが見える化されることで、「社内の紹介」がもっと進んでいくのではないかと考えています。
「主体的な自己実現」を後押しする社内データベース
–どのような体制で運営してますか?
編集長、専属編集スタッフが2名、兼務編集スタッフが3名という体制です。毎週編集会議を実施し、各自担当を割り振りながら記事を毎日3~4本公開し、週1回メルマガを配信しています
–重視されているKPIや振り返りはどのようにされていますか?
まずはしっかりと社員に見てほしいという観点から、一つの目安として毎日半数以上の社員が訪問することを目標としています。
コンテンツ単位での振り返りとしては、記事単位で部署別の閲覧状況もわかるので「本当は営業担当の人にみてもらいたいコンテンツがその部署にあまり届いてなかった」という振り返りにも活用することができます。
–なぜこのような取り組みをはじめたのですか?
課題解決という側面と、理念実現の側面があると思います。
課題解決という意味では、「事例共有会」という社内向けの勉強会をこれまでも開催してました。しかしながら場所も時間も固定されている取り組みなので、参加が難しいケースが発生します。
そうなると伝わる人の数も伝えられる案件の数も限定的になるという課題があり、オンラインにすることで、いつでも、どこでも体験できる環境を用意しました。
–これがあると、個々人の成長にもつながりますね
そうですね。特に中途入社メンバーや若手のメンバーにとっては、事例や人を知るまでにかかっていた時間が短縮し、早期の戦力化を期待することができるようになりました。
実際に記事数も溜まってきたことで検索利用も増えており、打ち合わせの場面で若手社員から「前に akb に載っていた事例でこういうものがありました」といったように、経験を知識でカバーして発言・提案する機会もうまれていると聞き、その効果を実感しています。
–では理念実現の側面とは?
前提として当社では、社員個々人が自己実現=やりたいことを形にしてほしいと思っています。そのために、会社としてできることは、それを実現しやすい環境を整えることです。「akb」の取り組みもその思想が根底にあります。
—主体的な自己実現の後押しですね。
そうですね。例えば、何か実現したいことがあった時に、仲間の力が必要になります。ただし、その仲間を知る方法がない、もしくは不十分だとするとその自己実現はかなえられません。そういったことが無いように、「人を知ることができる」そして「人とつながれる」仕組みが必要だと考えたのが「akb」がうまれたきっかけです。
もちろん、個々人の強いエネルギーを引き出して、高いパフォーマンスを発揮してもらうことで結果的に会社の成長にもつながっていくと思います。
「提案時の事例探し」と「仲間探し」に活用
–実際に、どのような時につかわれているのですか?
1つは「案件を一緒にできる仲間探し」です。
実際にあった話ですが、あるコスメブランドの案件を受注した際に、その営業担当者が今回のケースに最適なクリエイターをよく知らなかったので同様の事例を「akb」で検索したところ、適任のクリエイターをみつけることができたという事例があります。
2つ目の使われ方は「社内事例の自分ごと化」です。
クライアントへの提案時において「akb」に記載のある事例を「こういうことが今流行っています」、「前にこういう事例があったので今回も同様の手法が使えるかもしれません」と、良い意味で自分のことのように話すこともできています。
もし「akb」がなければ、社内の知人経由で聞いた限定的な情報しか活用できていなかったと思います。そういう垣根をブレークスルーができていると感じています。
社員同士の接点を生むために量を重視
–いまの課題は?
運営側としては、毎日3~4本を継続的に発信し続けることは、簡単なことではなく、負担が大きいのは事実です。また制作事例を紹介する際に「どこに着目すべきか」という部分はやはり現場経験がないと判断が難しい部分もあります。その辺りを常に高いレベルを維持し続けることの課題はあります。
–やはり質も大事であると?
理想論としては、量も質も追求すべきだと思います。ですが、記事ひとつで100%すべてがわかることを求めなくても良いと考えています。つまり、その記事が興味をもつきっかけになり、話をするきっかけになる「接点」であることの方が大事だと考えています。
仲間がみつかるプラットフォームに
–この3年間の取り組みを通じてどのように評価されていますか?
まずは、多くの社員に見てもらえる存在になったことは、手前味噌ですが評価してもよいのではと考えています。実際に、日常会話の中で「それakbにのせたらいいんじゃない」という声も聞くようになりました。また「akb」に掲載されたことで仕事につながったという事例も聞かれるようになりました。
–「仕事につながった」とは、社内発注という意味ですか?
はい、そうですね。クリエイターの人がプロデューサーから声をかけられて案件を担当したという意味です。プロデューサーやクリエイターからすると「akb」は仕事の取引がうまれるプラットフォームのようになっているかもしれません。
これがさらに進化をすれば、この「akb」プラットフォームを通じて、新しい人を知り、新しいクリエティブが生まれてることにつながっていくという、当初の理念実現に近づくことができると思っています。
–今後チャレンジしたいことは?
社長の進藤がよく「好き嫌いで仕事しろ」と言います。これは「主体的な自己実現」の言い換えだとも思いますが、こういう言葉が実現できる環境をもっと実現していきたいと思います。
例えば、一緒に働くメンバーにも相性というのもがあると思いますが、そういったことも踏まえて、最適な仲間がみつかるような体験ができればいいなと思います。
— 編集後記 —
取材の最後に出てきた言葉「好き嫌いで仕事しろ」。
逆の言葉はよく聞くが、この言葉は非常に現代的であり、生産的な言葉だと感じました。自分がやりたいことに対して、もっとわがままでいいと、だからこそ人は熱中すると。
また、アマナさんの「akb」を表層的に「ただの社内報」と受け取ってはいけません。そこに込められた本質的な意図は、社員の創造性を後押しすることにあります。いつもと同じやり方、いつもと同じメンバー、いつもと同じ提案ではいけないというメッセージが込められています。
つまり、自分自身の「好き=やりたい」を常に探し続け、そのために新しい人と積極的に挑戦し続けることをメンバーに求めています。
その強い想いと揺るぎない思想こそが、3年間で累積2,500のコンテンツを配信しつづけられた要因かもしれません。
<聞き手プロフィール >
野崎耕司
@Engagement編集長 / 株式会社トラックレコード代表取締役(共同経営者)。DeNAでの人事プロジェクト「フルスイング」の責任者、MERYの雑誌事業責任者やブランディング責任者などをつとめ、株式会社トラックレコードを2018年に設立。
https://twitter.com/nokonun
撮影:八島朱里